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【本魂一斉レビュー】自分探しが止まらない

「自分探しって、一種の『病(やまい)』だよ。」




最近よくそう話します。


一緒に『病』にかかっていた友人も、そろそろ気がつきはじめている。




まー、そんな自分自身も最近まで2年間ほど『病』でしたけど。




もうね、「自己啓発セミナードラッグ」絶賛中毒者






今回の書評は、私と同じ大学生にこそ読んで欲しい。


身近な友人にこそ読んで欲しい。


中田英寿、高橋歩、岩本悠、てんつくマン、大嶋啓介、渡邊美樹…


キーワード的にはバッチリあてはまるでしょ?




そう思いながら、ピンポイントにピックアップして書きましたよ。


現状の把握から、処方箋までばっちりです。


…熱中してしまってる人間には効果が薄いかもしれないけど。




書いている自分ですら、二年前の自分を説得できるかどうかを疑問に思うほどだ。




それほど「自分探し」自己啓発セミナー


熱狂的なポジティブシンキングドラッグ的な威力はすごい。








人生とか世界でもっとも大切なことは、バランス感覚じゃないかなって思う。




そのために、物事や考え方に触れるときは二面性が非常に重要なことだと思う。


対極、つまりまったく反対側の物事や考え方のこと。




幽霊や宇宙意志を信じない人は、スピリチュアルに行き過ぎているものに触れるべき。


海が大好きで、山なんて絶対いやって人ほど、一度山に登ってみればいい。


文章は手書きしかいかん!って人は、一定期間パソコン使ってみてはどうだろう。






価値を考える思考の柱が、一本から二本に増える。


比較できて、はじめて確信を深められるんじゃないかな?




もし世の中に、女性が一人しかいなかったら、


「かわいい」とか「かわいくない」なんて、基準すら生まれないと思う




対極の考え方は、基準つくりに非常に役に立つはず。




「自分探し」が『病』だって?




・・・まぁ言い分はわかる。




でも、ひとまず先入観をできるかぎりはずして、書評を読んでほしい。




書評というより、本のまとめになりつつあるが・・・。






自分探しが止まらない (ソフトバンク新書)
自分探しが止まらない (ソフトバンク新書)


■書評一言


自分探しと自己啓発の仕組みとルーツと危うさまで網羅。


あなたは大丈夫ですか?










■書評・感想


はじめに断っておくが、著者自身もかつて自分探しの『病』にハマっていた人です。


周囲の環境までまるっきり自分探し。




詳しくはあとがきに書かれている。 以下引用。




≪実際、周囲には、20代を放浪同前でアジアで過ごした奴、ピースポートで世界一周した奴、30代になって海外青年協力隊でアフリカに行く奴……そういったきちんと就職しない連中の方が多いくらいで、”自分探し系”に対しては、嫌悪感ではなく強い親近感があると言っていい(そして、この本を書いた事で友だちを失うようなことにならなければいいと強く思っている)。≫




といった具合である。


最後の文章からもわかるとおり”自分探し”を批判している。




ただし、著者は自分の考えだけで一方的に自分探しを批判しているのではない。


文献の使用して社会的背景から形成された歴史まできっちり書いている。






本書の構成は




1章:海外ボランティアなどで海外に自分を探しに突然飛び立ってしまう人などについて


2章:フリーターが生まれる労働環境と仕組み、さらに自分探しを強要する社会の仕組みまで


3章:自分探しを始めた人たちを食い物にする、「自分探しホイホイ」ビジネスについて


4章:自分探しに走る時代背景と、ハマりこまないためのヒント




という形になっている。




書評では、元自分探し患者である私がもっとも衝撃を受けた


3章:自分探しを始めた人たちを食い物にする、「自分探しホイホイ」ビジネスについて


中心に書きたいと思う。






◆自分探し&自己啓発のパターン




まずはじめに書いておくべきことと感じて、象徴的なものを引用しておく。




≪自己啓発書のパターンとは、ある種の悩み(ほとんどが仕事か恋愛かお金かの三者択一だ。時にはそれらが複合することもある)に対し、前向きな言葉を示し、最終的には、”ポジティブ・シンキング”を促す。もしくは「そのままのあなたでいい」と承認を与える類のものだ。≫-p37




心当たりが出てきた読者は要注意ともいえるかもしれない一文だ。








◆自己啓発や自分探しのルーツ





自分探しは、そもそもヒッピー文化が始まりだそうだ。


ヒッピーとは、ベトナム戦争の反戦のために、既成の価値観を打ち破るという思いを奇抜な格好などで表現した、1960年代アメリカに生まれた文化。合言葉は愛と芸術と平和である。




ヒッピー文化は、縮小して社会に溶け込んだように見えたが、ニューエイジという形で生き残る。




ニューエイジとは、ヨガ・チャネリング・瞑想・アロマテラピーなどに代表される活動である。




著者は、ニューエイジの象徴として、機動戦士ガンダムをあげる。




ガンダムシリーズに出てくる「ニュータイプ」(人が宇宙に出ることで進化して、勘が鋭くなったり、テレパシーを送れるようになったりするもの)が、まさにニューエイジ的発想であり、変身願望であるという。




つまり、この変身願望→本当の自分は別にいるといった発展した考えが、自分探し(こんな私は本当の自分じゃないから旅に出る)とか、自己啓発(そのままのあなたでいいよが基本スタイル)へと変わっていったのだ。




あと注目すべき引用箇所は二つ。






≪自己啓発セミナーはマルチ商法とともに日本に輸入されてきたのだ。≫-p55




この記事の後で紹介する自分探しビジネスの方たちの多くは、マルチ商法(ネットワークビジネス)の商品愛好者や営業だった人も多いのが、なんとなく共通点として浮かび上がる。




≪身も蓋もない言い方をするなら、自分探しの旅とは現実逃避のことだ。≫-p61




ちょっぴり危機感が出てきただろうか?






◆自分探しビジネス




高橋歩




サンクチュアリ出版という出版社がある。


本書を読むまで知らなかったが、この出版社は


自分探しのカリスマである高橋歩が『毎日が冒険』を出版するために立ち上げた会社らしい。




なお、あとで出てくる路上詩人から一気にのし上がったてんつくマンの本も


この出版社が発行元である。


※てんつくマンは、本書の中では改名前の軌保博光として書かれている。




次にビーチロックハウスをご存じだろうか?


沖縄本島読谷の海辺で高橋歩が経営するカフェバー&宿泊施設である。


生命力アップが謳い文句であり、無料農業体験施設や、遊牧民使用の大型テントなどが特徴。


自分探しをしているバックパッカーたちの聖地となっている。




なお、働いているスタッフは、ボランティアである。




つまり、客もボランティアもすべて自分探しの若者で構成されており、費用がまったくかからずに自分探しを繰り返す永久機関のもとになりたっている。




驚くべきは、これで得た資金である。


高橋歩本人に渡った収益は、年間数千万円だという。




「それでも、やりたいことが見つかったんだから、高橋歩さんにお金がいくら入ろうといい」




という反論があるかもしれないが、精神だけ磨く(磨かれているのかもよくわからないが)ことを、フリーターとして20代の後半まで続けてしまった、なんのスキルもない若者を、企業は必要とするだろうか?




すっかり「自由人」の名のもとに、やりたくないことが見つかったら、やらないというスタイルになってしまった人は生きていけない。芸術家として成功する人たちはほんの人握りにすぎないからだ。


そして、このなにもできなくなった若者が向かう先はひとつ。




寝食が完備されている、高橋歩の施設のボランティアとして永遠とまた居続けることになる。






予想以上に長くなってしまったので、あとは中田英寿だけ取り上げておこうと思う。




「あいのり」「世界一周」「てんつくマン」「居酒屋てっぺん」


「絶対内定シリーズの、正直でまじめな学生を自己啓発に走らせる仕組み」


などのお話がみたい場合は本書を手に取ってほしい。




特にてんつくマンが行った豪快な号外」という環境活動はあからさまな環境破壊活動であって、怒りが込み上げてくる。読んでほしい。






中田英寿




中田の自分探しの旅宣言は、企業のPR会社が仕掛けた色が強いという。




ちなみに、以下が引退表明(=自分探し宣言)。話題になったので知っている人も多いと思う。




≪半年ほど前から、このドイツワールドカップを最後に約10年間過ごしたプロサッカー界から引退しようと決めていた。何か特別な出来事があったからではない。その理由もひとつではない。今言えることは、プロサッカーという旅から卒業し、”新たな自分”探しの旅に出たい。そう思ったからだった。≫




この後の中田だが、アフリカなどにサッカーボールを持って子供たちと触れ合ったりする。


その様子はCM映像として多く流れたから、ご存じの方も多いだろう。




で、このCM映像が問題なのだ。




≪事実、中田の引退はPR会社の仕事として、綿密に仕掛けられた部分が大きい。トヨタとキヤノンは引退後の中田をCMに起用し、旅の途中の中田の映像としてテレビCMを流していた。チームメイトすら事前には知らされていなかった中田の引退だが、主要スポンサーには3ヵ月前から知らされており、こういったCMが事前に企画されていたのだ。≫




チームメイトにすら知らされていないって形には、中田に怒りすら覚えないだろうか?






とまぁこんなふうに自分探しと自己啓発たたきが永遠続くが、毛嫌いはしないでほしい。


冒頭に述べたように、物事の反対の側面を知ることは重要だとおもう。






自分探しに熱中している人にこそ、手に取ってほしい本。





この書評を見て嫌な気分になった人ほど、手に取ってほしい本。






自分探しや自己啓発を批判はしているものの、絶対に不要だとは思わない。


ただ、一時の高揚感を繰り返して得るような、ドラッグ的な要素があるのに注意したい。




キーワードとしてよく出てくる「気づき」という表現。




なぜ、自己啓発セミナーに参加した人は、みな「気づき」を得たというのに


そのセミナーになんども通うのだろうか?




気づいたなら、あとは自分の足で踏みだし、行動に移せるはず。


何度も通う人は、気づきを得たという雰囲気だけを味わう、中毒者ではないかと思った。






では、最後に処方箋として。




ここではないどこかに本当の自分がいる。




その考えは、非常に危うい。


解決するために、私は哲学をお勧めする。


哲学=難解。たしかに間違いではない。




そこで、哲学を学者たちだけの難しい言葉遊びから解放した、


池田晶子さんの14歳の君へを読んでほしいと思う。




私自身が自己啓発の病から完全脱出したのは、この本を読んだ影響が大きい。


これは、ある種の真理をついた本だから。




14歳の君へ―どう考えどう生きるか/池田 晶子



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